沖縄病院 肺がんセンターのご案内

最新(2015年)の沖縄県疫学調査において、男女を合わせたがんの部位別死亡数のトップは依然として肺がんであり、現在、その死亡数(率)低下に向けて様々な取り組みが行政一体となって行われています。

この度、当院では肺がんに特化した医療機能を推進するために「肺がんセンター」を設立しました。

治療方針に悩む進行肺癌例に対しては"集学的治療"が必要不可欠であり、呼吸器外科・呼吸器内科・放射線診断科・放射線治療科・病理診断科の専門医でキャンサーボードを開催し、治療方針を決定していきます。(呼吸器外科専門医2名 / 呼吸器学会専門医9名 / 呼吸器内視鏡学会専門医4名 / 放射線専門医1名 / 放射線治療専門医1名 / 病理専門医1名 / 日本がん治療認定機構暫定教育医1名・認定医4名)

沖縄県における肺がん診療の核となる専門施設として、地域の医療機関と連携を図りながら、肺癌治療成績の更なる向上を目指してまいります。

特に、早期肺癌に対しては「機能温存」と「根治性」を重視した縮小手術、進行肺癌に対しては「根治性」を目指した集学的治療(化学療法、放射線治療、手術)、拡大手術に、積極的に取り組んでいきます。

外科医長/肺がんセンター長インタビュー

呼吸器外科手術に対する当センターの方針

肺癌

通常、非小細胞肺癌のステージI期、II期、一部のIIIA期、また、小細胞肺癌のステージI期に対しては標準治療である肺葉切除+リンパ節郭清が選択されます。

ステージI期の中でも、特に早期な肺癌に対しては機能温存と根治性を重視した縮小手術を積極的に行い、また、初診時に切除困難な進行肺癌に対しては、導入治療(化学療法、放射線治療)にて腫瘍縮小をはかった後、隣接臓器合併切除や肺動脈形成などの手技を併用する拡大手術にて完全切除を目指します。(集学的治療)

また、拡大手術の際も、気管・気管支形成などの手技を用いることによって、可能な限り肺全摘術を避け、機能温存を目指します。

機能温存を目指した手術

1.縮小手術について

肺癌に対する手術には、肺葉切除、リンパ節郭清を行う標準手術と、肺切除量を減らすことによって呼吸機能を温存する縮小手術があります。

縮小手術の場合、切除断端からの再発が問題となり、標準手術が行えない場合にやむなく選択されていましたが(消極的)、近年、画像所見から早期肺癌の選別が可能になり、縮小手術(肺区域切除、肺部分切除)の妥当性が証明されてきております。

当院においても早期の小型肺癌に対しては積極的に縮小手術を行い、癌の根治性を保ちつつ、術後の呼吸機能低下を避け、生活レベルの質を維持できるように配慮しています。

2.気管支形成術について

肺癌に対する標準手術は、癌が存在する肺葉を切除することですが、癌が肺葉気管支の中枢側に発生した場合や肺動脈本幹に浸潤した場合、肺全摘(片肺全部の切除)が必要になります。

片肺になると手術後の呼吸機能は半分になり、日常生活に支障をきたすことが予想されるため、肺全摘は十分な耐術能を有する患者さんにのみ行われます。

一方、肺全摘を回避するために考案された術式が、気管・気管支形成術で、癌の存在する中枢の気管支を一旦切り離して肺葉切除を行い、その後、正常な気管支同士をつなぎ合わせることで正常肺の温存を可能にします。

口径差のある気管・気管支の血流維持、緊張のかからない状態での縫合が必要になるため、手術手技は複雑になり、高度な技術力が必要になります。

また、切除断端に癌細胞が残存しないようにするため、術中に切除断端の顕微鏡検査を行います(術中迅速病理検査)。

当科では、以前よりこの術式を行っており、「根治性の維持」と「術後QOL(クオリティーライフ)の維持」に積極的に取り込んでいます。

当センターの役割

沖縄病院では約半数の患者が他施設より紹介されて来院しています。県がん診療連携拠点病院(琉球大学附属病院病院)、地域がん診療連携拠点病院(県立中部病院、那覇市立病院)、地域がん診療病院(北部地区医師会病院、県立宮古病院、県立八重山病院)からも治療に難渋する患者様をご紹介いただいています。

当センターの成績

当センターの位置付け

肺癌薬物治療に対する当センターの方針

肺がんの治療(薬物療法について)

肺がんの治療は、治療効果が確認されているものとして①外科治療、②薬物療法、③放射線治療、④緩和医療の4つがあります。肺がんの治療は、検査を行いがんの種類(組織型)、進行度、年齢、全身状態などから検討して行います。

薬物療法は、抗がん剤を点滴や内服で投与し、抗がん剤が血流にのって全身をめぐり、全身に広がったがん細胞に作用することで治療効果を発揮する治療です。抗がん剤はがん細胞の増殖をおさえ、がん細胞を死滅させることを目的としています。

外科治療や放射線治療ができない場合には、薬物療法のみを行いますが、進行度によっては外科治療や放射線治療を組み合わせ、治療効果を高めることが期待できます。

次に、薬物療法で使用する抗がん剤についてですが、現在は主に以下の抗がん剤があります。

1.細胞障害性抗がん剤

細胞増殖に関係しているDNAに作用したり、がん細胞の分裂を妨げたりすることで、がん細胞の増殖を抑える薬です。肺がんの治療では、一般的に2種類の抗がん剤を組み合わせる治療が一般的であり、プラチナ製剤と抗がん剤を組み合わせて治療を行います。

副作用の出現は、個人差があるのと、薬剤により多少の違いはあります。

食欲低下、だるさ、吐き気、下痢、脱毛といった症状、しびれや筋肉痛、関節痛、皮膚症状といった薬剤により頻度がことなる症状や、白血球(とくに好中球)、血小板、ヘモグロビンの低下、肝機能障害など採血で確認しないとわからないことが多いものなどが一般的に出現すると言われています。

副作用の出現時期は治療してから早期は吐き気、だるさなどがでることが多いですが、個人差や治療内容により異なります。また、副作用に対しての治療法も以前と比較して良くなっているため、安心して治療を受けることができると思います。

2.分子標的治療薬

がん遺伝子やがん関連タンパク質、がんの血管を標的とした薬で、主に以下の薬剤があります。

1)上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬

がん細胞中のEGFR遺伝子変異を調べることにより、変異がある(陽性)場合、EGFR阻害薬の治療は効果が高いと言われています。遺伝子変異陽性の頻度は日本人で30-40%くらいといわれています。

副作用は、細胞障害性抗がん剤と比較すると、食欲低下、だるさ、吐き気などの症状は少ないですが、皮膚症状や爪の変化を認めることがあります。また、まれに間質性肺炎といった危険性の高い副作用があります。

2)ALK阻害薬

がん細胞中の未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)に遺伝子融合が生じているか調べ陽性の場合、ALK阻害薬の治療は効果が高いと言われています。頻度は非小細胞肺がん全体の5%以下と低いです。

副作用は、EGFR阻害薬と同様、食欲低下、だるさ、吐き気などの症状は多くないですが、視力障害、肝障害、腎障害を認めることがあります。また、まれに間質性肺炎といった危険性の高い副作用があります。

3)血管新生阻害薬

血管内皮増殖因子(VEGF)という、新しい血管を作る働きをする成長因子を阻害する薬です。そのVEGFを抑えることで、がんを栄養する血管新生を阻害します。

プラチナ製剤を含む化学療法と併用することで抗がん剤の働きを高めると言われていますし、抗がん剤投与が終了しても治療効果がある場合は継続して投与することもあります。

副作用は高血圧、出血、蛋白尿などがあり、喀血を起こしたことがある患者さんへの使用は一般的には行いません。

4)免疫チェックポイント阻害薬

がん細胞は免疫にブレーキをかけて、免疫細胞の働きを阻止しています。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫細胞にかけているブレーキを解除することで、再びがん細胞が攻撃できるようにする治療法です。現在、臨床で使用されている免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞にあるPD-1とがん細胞のPD-L1の結合を阻害する薬剤です。

がん細胞に発現しているPD-L1の割合(%)により発現率が高い(50%以上)の患者さんには1次治療から治療効果があることがわかっています。

副作用としては、だるさ、吐き気は多くないです。しかし、免疫関連有害事象といって、この薬剤に特徴的な副作用を認めることがあり、皮膚障害、下痢、大腸炎などの胃腸障害、肝障害や、甲状腺機能障害の内分泌障害があります。

頻度は少ないですが1型糖尿病、末梢神経障害、重症筋無力症などの神経障害を認めることがあります。また他の薬剤と同様間質性肺炎を発症することがあります。肺がん、特に非小細胞肺がんに対する新規薬剤の進歩、開発は著しく、以前と比較して予後も改善しています。

一方で肺がんは日本人において癌の死因の第1位であり、高齢化に伴い増加していくことが予想され、薬物療法をはじめ、個人に最適な治療を行うことが重要なことだと考えています。

当院では、薬物療法を行っている患者さんも多く、治療はもちろん副作用対策にも力をいれています。医師、コメディカルスタッフが協力しながら患者さんの状態を把握し、安心して薬物療法が行うことができるように努力していきたいと思います。

高精度放射線治療に対する当センターの方針

肺がんの治療(放射線療法について)

 当院ではX線・電子線による外部照射(体外照射)を行っています。放射線は照射されても熱や痛みなどを感じることはありません。照射部位や範囲にもよりますが、一般的に放射線治療による体への負担は小さく、高齢で体力に自信のない方でも安全に受けていただける治療です。病気の種類や進行度、患者様の状態によって、トータルで1回~30回程度の放射線照射を行います。治療は土日祝祭日を除き月~金曜まで続けて行います。

 外部照射の影響は患者様ご本人に限られ、ご家族や同居されている方が被ばくすることはありませんので、安心して治療を受けてください。

肺がんの放射線治療

 肺がんに対しては、ステージⅠ期からⅣ期まで放射線治療の適応があります。放射線治療単独または抗がん剤との併用でがんの治癒を目指す根治的放射線治療、手術と組み合わせて治療効果の向上を図る補助的な放射線治療、がんによる辛い症状をとるための緩和的放射線治療など、がんの種類や進行度、患者様の全身状態にあわせて最適な治療方針を選択します。

 手術では負担が大きくなりすぎるような場合や、肝臓や腎臓などの機能が低下していて薬物療法を満足に行えない患者様に対しても、放射線治療であれば根治を目指した治療を行えることがあります。

 一方、放射線治療の副作用として放射線肺臓炎がしばしば問題となります。特に照射範囲が広くなりすぎる場合や、間質性肺炎を合併している患者様では重篤になるリスクが高く、放射線治療を行った方が良いのか慎重に判断する必要があります。

 当院では、呼吸器外科・内科と協同して治療方針を決定し、患者様に最適な治療を提供できるよう努めています。

定位放射線治療

 定位放射線治療は、高い精度管理のもとに、がん病巣に集中して一度に高線量の放射線を照射する治療です。通常の照射法に比べて治療効果が高く、ステージⅠ期の肺がんや小さな脳転移であれば局所制御率は80-90%以上です。周囲の正常臓器への負担も小さく、治療期間や治療回数も少なくて済みます。がんの大きさや位置によっては定位放射線治療が難しい場合もあります。

 当院で対象となる主な疾患は、早期の肺がん、少数個の脳転移、脊椎転移、その他体幹部への5個以内の転移です。